special.2

Steve Yzerman

(Detroit Red Wings vs. Colorado Avalanche)

スティーブ・アイザーマン

(NHL・デトロイト・レッドウィングス)
180センチ、84キロ。センター。 1965年5月9日、カナダ生まれ。 1983年のドラフトで、1巡目全体4番目で デトロイト・レッドウィングスの指名を受ける。 1986-87シーズン、21歳(球団史上最年少)で
主将
となる。 以来、
“ホッケータウン”デトロイトのチーム
キャプテンという大役を務め続けてきた。 1999年7月現在、NHL史上就任期間最長の主将。 はじめはポイントをかせぐタイプのプレーヤーだったが、  名将スコッティ・ボウマンのもと、守備型のFWに変貌。 チームプレーに徹するリーダーシップが功を奏し、 レッドウィングスは見事なチームプレーを誇るチームとなり スタンレーカップ2連覇(1996-97、97-98シーズン)を果たした。 1997-98シーズンは、プレイオフMVPに選ばれ コンスマイス・トロフィーを獲得した。 名実ともに、NHLを代表するキャプテンである。 長野オリンピックカナダ代表。 スティーブ・アイザーマンを生で見たことがあるのは 長野オリンピックのスウェーデン-カナダ戦の1回だけです。 1998-99シーズンのプレーオフも、実際に北米で見たわけではありません。 でも、インターネットや新聞、テレビ放送で触れた デトロイト・レッドウィングス-コロラド・アバランチの対決が とても印象深かったので、 このシリーズについて書いてみました。 ご了解のうえ、読んでいただければ幸いです。 <伝説のゴール>
           スティーブ・アイザーマンが決めてきたゴールのなかで、今も語           り継がれているのは、1995-96シーズンのプレイオフ、西カンファ           レンスセミファイナル(対セントルイス・ブルース)第7戦、第2           オーバータイムで決めたブルーラインからのロングシュートである。           舞台は、地元“ホッケータウン”デトロイトのジョー・ルイス・ア           リーナ。スコアは0-0のタイだった。            「ああ、一部始終を覚えているよ」とアイザーマンは語る。           「私はニュートラルゾーンを抜けて上がってきた。実際は、ただパ           ックを敵のDFにとられないようにしただけなんだ。DFがブルー           ライン上で持ちこたえて守っていたから、その足を避けて打ったん           だ。そのプレーのあいだはずっと、全てがはっきりと見えていた。           打ったパックは、ゴールの後ろのバーに当たる前に、クロスバーの           下に当たって、そして右へ跳ね返った。最初に私は周囲を見まわし           て、こう考えた。           “あれが入るなんて、信じられない!”」            常に冷静なアイザーマンも、このときばかりは躍り上がって喜ん           だ。その彼に次々とレッドウィングスのチームメイトが折り重なる           光景が、ビデオに残っている。            しかし、この伝説のゴールについても彼はこう言う。           「皆思い出すだろう、あの年私たちがスタンレーカップを獲ってい           ないことを」
<好敵手>
           この年スタンレーカップを獲得したのは、スター集団コロラド・

          アバランチであった。

           アイザーマンの劇的なゴールにより、レッドウィングスは西カン

          ファレンス決勝に勝ちあがった。しかし、第6戦までもつれこむ死

          闘の末に、コロラド・アバランチに敗れたのだ。

           第6戦で、アバランチのクロード・ルミューがレッドウィングス

          のクリス・ドレイパーをボード際でチェック、顎を負傷させたこと

          も因縁となり、アメリカの4大スポーツのなかでも屈指の、両者の

          ライバルとしての歴史が始まる。

           アバランチのスタンレー獲得の原動力となったのは、若き主将、

          ジョー・サキックだった。4歳年上で、ともに背番号19番をつける

          アイザーマンとはチーム・カナダではチームメイトであり、どちら

          も小柄だが優秀なセンター、と共通点も多い。そのプレーする姿で

          強豪チームをまとめてきた2人の主将同士もまた好敵手であるとい

          えるだろう。

           翌(1996-97)シーズンのプレイオフ、またも西カンファレンス決

          勝で顔をあわせた両者は、再度6戦までもつれこむ激闘を展開する。

           そして、今回の勝者はレッドウィングスだった。

           レッドウィングスが、スタンレーカップファイナルで対戦した東

          カンファレンス王者はフィラデルフィア・フライヤーズ。“GREAT 

          ONE”ウェイン・グレツキーの次の世代のスターとして“NEXT ONE”

          と呼ばれる エリック・リンドロスを擁し、その破壊的な攻撃力で

          “破滅軍団”の異名を持つチームである。

           レッドウィングスは不足のない相手をスイープで下し、1955年以

          来手にすることが出来なかったスタンレーカップを“ホッケータウ

          ン”デトロイトにもたらした。
<対決>
           1997-98シーズン、アバランチがプレーオフ一回戦で予想外の敗

          北を喫したのに対し、レッドウィングスはスタンレーカップ・ファ

          イナルで、知将ロン・ウィルソン率いるワシントン・キャピタルズ

          をスイープで破り、2年連続でスタンレーカップを獲得。

           そして、アイザーマンはそのリーダーシップを評価され、プレー

          オフMVPとして、コンスマイス・トロフィーを手にした。

           レッドウィングスの王朝時代の到来か、という声もあるなかで、

          1998-99シーズンが幕を開けた。

           まったく勝てなかったシーズン開幕時が嘘のように、西カンファ

          レンス2位におさまったアバランチと、無難な戦いぶりで西カンフ

          ァレンス3位でレギュラーシーズンを終えたレッドウィングスは、

          プレイオフ、カンファレンスセミファイナルで対戦。

           レッドウィングスには、トップゴーリー、クリス・オズグッドの

          怪我による欠場という不安材料があった。

           しかし、トレード期限直前に獲得した、エドモントン・オイラー

          ズでスタンレーカップ獲得の経験があるベテランゴーリー、ビル・

          ランフォードの活躍で、第1・2戦と連勝。シリーズの帰趨はレッ

          ドウィングス有利に見えた。

           そしてアイザーマンは、順調にポイントを重ね、チームの攻撃の

          中心となっていた。

           だが、第3戦、勝負の分かれ目がやってくる。
<ターニング・ポイント>
           第3戦の幕開けも、レッドウィングスとアイザーマンにとっては

          上々に見えた。第1ピリオド7分7秒、アイザーマンは、今プレイ

          オフ9つ目のゴールを決めた。

           しかし、第1ピリオドのちょうど中程の時間帯に、更に追加点と

          なるかと思われたアイザーマンのシュートが、アバランチのゴーリ

          ー、パトリック・ロワの守るゴールのクロスバーを叩いたときから、

          ゲームの行方が変わり始めた。

           第1ピリオド10分19秒、レッドウィングスのDFアーロン・ウォ

          ード、更に10分23秒、DF二クラス・リドストロムがペナルティを

          とられる。アバランチは、ピーター・フォースバーグ、サキックの

          アシストでウィングスとは因縁深いルミューが同点のパワープレー

          ゴールを決めた。

           ここから、ロードの強さには定評のあるアバランチの、“雪崩”

          というチーム名に恥じない、怒涛のような攻撃が始まる。第1ピリ

          オドに1点追加して2-1と勝ち越すと、第2ピリオドの2分50秒、

          3分42秒、5分5秒と立て続けにゴールして、瞬く間に5-1と点

          差を広げた。この攻撃は、第1・2戦のヒーローだったレッドウィ

          ングスのGKランフォードを氷から引きずり下ろした。

           レッドウィングスも、第2ピリオド9分9秒にアイザ―マンのア

          シストから1点返し、第3ピリオドの終了間際(19分25秒)、パワ

          ープレーゴールで5-3と追いすがるが、ホームのファンの前で宿

          敵に敗北を喫した。

           「私のシュートははクロスバーを叩いた。そして約1分後、彼ら

          は5対3のパワープレーを終えたんだ。あれはゲームの大きな変

          わり目だった、そうなってしまったんだ。」

          と、アイザーマンは語る。

          「時々、ゴーリーがビッグセーブをしたり、誰かが大きなプレーを

          すると、それはゲームに強い影響を与える。不運にも、私のシュー

          トはクロスバーに当たったんだ」

           ESPNは、“ターニングポイント”として、このアイザーマン

          のシュートを、第4戦の放送のなかで流した。美しいフォームから

          放たれたアイザーマンのシュートは、、クロスバーに当たって乾い

          た音をたてていた。
<再び>
           この第3戦からシリーズの流れが変わったのは明らかだった。

          アイザーマン自身も、こう語る。

          「コロラドは第2戦の後、大幅に調整してきたよ。彼らはすっかり

          スタイルを変えて、実に見事に守った」

          「シリーズでは1戦ごとにプレーを高めていく必要がある。そして

          このシリーズの最中、特に第3・4戦は、私たちはそれを実行でき

          なかった。

           コロラドは勝利のために多くのことを実行した。彼らは果敢にネ

          ットに突進し、強固なディフェンスを見せたよ」

           アバランチは底力を見せ始める。FWピーター・フォースバーグ

          のような主力はもちろん、第3・4つ目のラインも得点を重ねる。

          そして、GKは、プレーオフでの勝負強さには定評のあるパトリッ

          ク・ロワなのだ。

           一方、レッドウィングスのGKランフォードは、第4戦でも第2

          ピリオド途中で交替。その後氷に乗ることはなかった。

           第4戦は6-2、第5戦は3-0と連敗したが、アイザ―マンはチ

          ャンピオンチームの闘将であり続けた。

          「シリーズ前にこの状況を知らされたとしても、驚いたりしないよ」

          完封された第5戦の後でも、アイザーマンはそう言った。

          「私たちが予想していたのは長い、辛いシリーズだ。決してこのシ

          リーズを落としたなんて考えない。私たちはこのまま負けたりしな

          いんだ」

           だが、3連覇はやはり難しかった。

           第6戦、アバランチは第1ピリオドに先制点を入れると、第2ピ

          リオドにも4分12秒、5分46秒、8分14秒と立て続けに得点する。

          4-0となったが、レッドウィングスとアイザーマンは諦めない。

          17分24秒、アイザーマンのアシストでリドストロムがゴールを決め

          4-1、29秒後の17分53秒、更に1点追加して4-2と詰め寄った。

           だが、そこまでだった。

          第3ピリオド13分31秒、アバランチのフォースバーグがゴールを決

          め、5-2となったスコアは、ゲーム終了まで動かなかった。

           ジョー・ルイス・アリーナのスタンディング・オベーションのな

          かで、レッドウィングスとアイザーマンは、シーズンを終えた。

           「あの喝采はすばらしかった、選手は皆気づいていた」

          とアイザーマンは言った。

          「私たちは、今夜の、そしてシーズンを通してのファンの応援に感

          謝している」

           激しく戦ってきただけ、疲れと失望も大きい。

          「今は疲れている」

          「毎年毎年スタンレーカップを勝ち取ろうとすることで、消耗して

          疲れ切ってしまうんだ」

           そして、レッドウィングスはもはやチャンピオンではない。

          「ここ2年、私は常に自分たちをスタンレーカップ・チャンピオン

          だと思ってきた。そして外の誰もがそうだった。私たちはもはや唯

          一の存在ではないんだ。でも私たちはうなだれることは出来ない。

          チームを再編成しなくてはいけないんだ」

           アイザーマンは、あくまでも闘将であり続ける。

          「私は、来シーズン、チームが再編成し、再び競争者になると思っ

          ている。私たちはそう何年も競争者ではいないと思う。私たちのゴ

          ールは、再びスタンレーカップを勝ち取ることなんだ。」

           ディフェンディングチャンピオンの闘将としてシーズンを戦い抜

          いたアイザーマンには、今は休息が必要だ。

           そして来シーズンは、また不屈の闘志を見せてくれるだろう。

           シュートは、クロスバーに当たってゴールに入ることもあれば、

          クロスバーに当たってゴールに入らないこともある。

           でも、大切なのは、いいシュートを打ち続けることであることを、

          誰よりも分かっているのは、スティーブ・アイザーマンであるだろ

          うから。

<参考文献>

WORLDTRAVELER(Northwest航空 機内誌)

Number

<参考にしたHP>

Detroit News Online

NHLPA

NHLcom 

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Vol.2

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