主将となる。 以来、
“ホッケータウン”デトロイトのチームキャプテンという大役を務め続けてきた。 1999年7月現在、NHL史上就任期間最長の主将。 はじめはポイントをかせぐタイプのプレーヤーだったが、 名将スコッティ・ボウマンのもと、守備型のFWに変貌。 チームプレーに徹するリーダーシップが功を奏し、 レッドウィングスは見事なチームプレーを誇るチームとなり スタンレーカップ2連覇(1996-97、97-98シーズン)を果たした。 1997-98シーズンは、プレイオフMVPに選ばれ コンスマイス・トロフィーを獲得した。 名実ともに、NHLを代表するキャプテンである。 長野オリンピックカナダ代表。 スティーブ・アイザーマンを生で見たことがあるのは 長野オリンピックのスウェーデン-カナダ戦の1回だけです。 1998-99シーズンのプレーオフも、実際に北米で見たわけではありません。 でも、インターネットや新聞、テレビ放送で触れた デトロイト・レッドウィングス-コロラド・アバランチの対決が とても印象深かったので、 このシリーズについて書いてみました。 ご了解のうえ、読んでいただければ幸いです。 <伝説のゴール>
スティーブ・アイザーマンが決めてきたゴールのなかで、今も語 り継がれているのは、1995-96シーズンのプレイオフ、西カンファ レンスセミファイナル(対セントルイス・ブルース)第7戦、第2 オーバータイムで決めたブルーラインからのロングシュートである。 舞台は、地元“ホッケータウン”デトロイトのジョー・ルイス・ア リーナ。スコアは0-0のタイだった。 「ああ、一部始終を覚えているよ」とアイザーマンは語る。 「私はニュートラルゾーンを抜けて上がってきた。実際は、ただパ ックを敵のDFにとられないようにしただけなんだ。DFがブルー ライン上で持ちこたえて守っていたから、その足を避けて打ったん だ。そのプレーのあいだはずっと、全てがはっきりと見えていた。 打ったパックは、ゴールの後ろのバーに当たる前に、クロスバーの 下に当たって、そして右へ跳ね返った。最初に私は周囲を見まわし て、こう考えた。 “あれが入るなんて、信じられない!”」 常に冷静なアイザーマンも、このときばかりは躍り上がって喜ん だ。その彼に次々とレッドウィングスのチームメイトが折り重なる 光景が、ビデオに残っている。 しかし、この伝説のゴールについても彼はこう言う。 「皆思い出すだろう、あの年私たちがスタンレーカップを獲ってい ないことを」
この年スタンレーカップを獲得したのは、スター集団コロラド・ アバランチであった。 アイザーマンの劇的なゴールにより、レッドウィングスは西カン ファレンス決勝に勝ちあがった。しかし、第6戦までもつれこむ死 闘の末に、コロラド・アバランチに敗れたのだ。 第6戦で、アバランチのクロード・ルミューがレッドウィングス のクリス・ドレイパーをボード際でチェック、顎を負傷させたこと も因縁となり、アメリカの4大スポーツのなかでも屈指の、両者の ライバルとしての歴史が始まる。 アバランチのスタンレー獲得の原動力となったのは、若き主将、 ジョー・サキックだった。4歳年上で、ともに背番号19番をつける アイザーマンとはチーム・カナダではチームメイトであり、どちら も小柄だが優秀なセンター、と共通点も多い。そのプレーする姿で 強豪チームをまとめてきた2人の主将同士もまた好敵手であるとい えるだろう。 翌(1996-97)シーズンのプレイオフ、またも西カンファレンス決 勝で顔をあわせた両者は、再度6戦までもつれこむ激闘を展開する。 そして、今回の勝者はレッドウィングスだった。 レッドウィングスが、スタンレーカップファイナルで対戦した東 カンファレンス王者はフィラデルフィア・フライヤーズ。“GREAT ONE”ウェイン・グレツキーの次の世代のスターとして“NEXT ONE” と呼ばれる エリック・リンドロスを擁し、その破壊的な攻撃力で “破滅軍団”の異名を持つチームである。 レッドウィングスは不足のない相手をスイープで下し、1955年以 来手にすることが出来なかったスタンレーカップを“ホッケータウ ン”デトロイトにもたらした。
1997-98シーズン、アバランチがプレーオフ一回戦で予想外の敗 北を喫したのに対し、レッドウィングスはスタンレーカップ・ファ イナルで、知将ロン・ウィルソン率いるワシントン・キャピタルズ をスイープで破り、2年連続でスタンレーカップを獲得。 そして、アイザーマンはそのリーダーシップを評価され、プレー オフMVPとして、コンスマイス・トロフィーを手にした。 レッドウィングスの王朝時代の到来か、という声もあるなかで、 1998-99シーズンが幕を開けた。 まったく勝てなかったシーズン開幕時が嘘のように、西カンファ レンス2位におさまったアバランチと、無難な戦いぶりで西カンフ ァレンス3位でレギュラーシーズンを終えたレッドウィングスは、 プレイオフ、カンファレンスセミファイナルで対戦。 レッドウィングスには、トップゴーリー、クリス・オズグッドの 怪我による欠場という不安材料があった。 しかし、トレード期限直前に獲得した、エドモントン・オイラー ズでスタンレーカップ獲得の経験があるベテランゴーリー、ビル・ ランフォードの活躍で、第1・2戦と連勝。シリーズの帰趨はレッ ドウィングス有利に見えた。 そしてアイザーマンは、順調にポイントを重ね、チームの攻撃の 中心となっていた。 だが、第3戦、勝負の分かれ目がやってくる。
第3戦の幕開けも、レッドウィングスとアイザーマンにとっては 上々に見えた。第1ピリオド7分7秒、アイザーマンは、今プレイ オフ9つ目のゴールを決めた。 しかし、第1ピリオドのちょうど中程の時間帯に、更に追加点と なるかと思われたアイザーマンのシュートが、アバランチのゴーリ ー、パトリック・ロワの守るゴールのクロスバーを叩いたときから、 ゲームの行方が変わり始めた。 第1ピリオド10分19秒、レッドウィングスのDFアーロン・ウォ ード、更に10分23秒、DF二クラス・リドストロムがペナルティを とられる。アバランチは、ピーター・フォースバーグ、サキックの アシストでウィングスとは因縁深いルミューが同点のパワープレー ゴールを決めた。 ここから、ロードの強さには定評のあるアバランチの、“雪崩” というチーム名に恥じない、怒涛のような攻撃が始まる。第1ピリ オドに1点追加して2-1と勝ち越すと、第2ピリオドの2分50秒、 3分42秒、5分5秒と立て続けにゴールして、瞬く間に5-1と点 差を広げた。この攻撃は、第1・2戦のヒーローだったレッドウィ ングスのGKランフォードを氷から引きずり下ろした。 レッドウィングスも、第2ピリオド9分9秒にアイザ―マンのア シストから1点返し、第3ピリオドの終了間際(19分25秒)、パワ ープレーゴールで5-3と追いすがるが、ホームのファンの前で宿 敵に敗北を喫した。 「私のシュートははクロスバーを叩いた。そして約1分後、彼ら は5対3のパワープレーを終えたんだ。あれはゲームの大きな変 わり目だった、そうなってしまったんだ。」 と、アイザーマンは語る。 「時々、ゴーリーがビッグセーブをしたり、誰かが大きなプレーを すると、それはゲームに強い影響を与える。不運にも、私のシュー トはクロスバーに当たったんだ」 ESPNは、“ターニングポイント”として、このアイザーマン のシュートを、第4戦の放送のなかで流した。美しいフォームから 放たれたアイザーマンのシュートは、、クロスバーに当たって乾い た音をたてていた。
この第3戦からシリーズの流れが変わったのは明らかだった。 アイザーマン自身も、こう語る。 「コロラドは第2戦の後、大幅に調整してきたよ。彼らはすっかり スタイルを変えて、実に見事に守った」 「シリーズでは1戦ごとにプレーを高めていく必要がある。そして このシリーズの最中、特に第3・4戦は、私たちはそれを実行でき なかった。 コロラドは勝利のために多くのことを実行した。彼らは果敢にネ ットに突進し、強固なディフェンスを見せたよ」 アバランチは底力を見せ始める。FWピーター・フォースバーグ のような主力はもちろん、第3・4つ目のラインも得点を重ねる。 そして、GKは、プレーオフでの勝負強さには定評のあるパトリッ ク・ロワなのだ。 一方、レッドウィングスのGKランフォードは、第4戦でも第2 ピリオド途中で交替。その後氷に乗ることはなかった。 第4戦は6-2、第5戦は3-0と連敗したが、アイザ―マンはチ ャンピオンチームの闘将であり続けた。 「シリーズ前にこの状況を知らされたとしても、驚いたりしないよ」 完封された第5戦の後でも、アイザーマンはそう言った。 「私たちが予想していたのは長い、辛いシリーズだ。決してこのシ リーズを落としたなんて考えない。私たちはこのまま負けたりしな いんだ」 だが、3連覇はやはり難しかった。 第6戦、アバランチは第1ピリオドに先制点を入れると、第2ピ リオドにも4分12秒、5分46秒、8分14秒と立て続けに得点する。 4-0となったが、レッドウィングスとアイザーマンは諦めない。 17分24秒、アイザーマンのアシストでリドストロムがゴールを決め 4-1、29秒後の17分53秒、更に1点追加して4-2と詰め寄った。 だが、そこまでだった。 第3ピリオド13分31秒、アバランチのフォースバーグがゴールを決 め、5-2となったスコアは、ゲーム終了まで動かなかった。 ジョー・ルイス・アリーナのスタンディング・オベーションのな かで、レッドウィングスとアイザーマンは、シーズンを終えた。 「あの喝采はすばらしかった、選手は皆気づいていた」 とアイザーマンは言った。 「私たちは、今夜の、そしてシーズンを通してのファンの応援に感 謝している」 激しく戦ってきただけ、疲れと失望も大きい。 「今は疲れている」 「毎年毎年スタンレーカップを勝ち取ろうとすることで、消耗して 疲れ切ってしまうんだ」 そして、レッドウィングスはもはやチャンピオンではない。 「ここ2年、私は常に自分たちをスタンレーカップ・チャンピオン だと思ってきた。そして外の誰もがそうだった。私たちはもはや唯 一の存在ではないんだ。でも私たちはうなだれることは出来ない。 チームを再編成しなくてはいけないんだ」 アイザーマンは、あくまでも闘将であり続ける。 「私は、来シーズン、チームが再編成し、再び競争者になると思っ ている。私たちはそう何年も競争者ではいないと思う。私たちのゴ ールは、再びスタンレーカップを勝ち取ることなんだ。」 ディフェンディングチャンピオンの闘将としてシーズンを戦い抜 いたアイザーマンには、今は休息が必要だ。 そして来シーズンは、また不屈の闘志を見せてくれるだろう。 シュートは、クロスバーに当たってゴールに入ることもあれば、 クロスバーに当たってゴールに入らないこともある。 でも、大切なのは、いいシュートを打ち続けることであることを、 誰よりも分かっているのは、スティーブ・アイザーマンであるだろ うから。
<参考文献> WORLDTRAVELER(Northwest航空 機内誌) Number <参考にしたHP> Detroit News Online NHLPA NHLcom Welcome to HOCKEYTOWN! Vol.2 〈2000・2・13 Detroit Red Wings-Colorado Avalanche《Pepsi Center》〉へ ホームヘ